今回は前回に続き、バルカン半島の国を5つ紹介する。東欧に分類され、ギリシャを除く4か国は1990年前後まで共産主義陣営であった。ただし、旧ユーゴスラビア諸国と比べ、これらの国はより独自の民族を持ち、紀元前からの歴史が継承されていていることが多い。前回のように共通点はない5か国だが、国をイメージする「ひとこと」加え、民族的相違に注目して紹介していく。
57.ギリシャ 古代ギリシャ
著者はソシャゲのおかげでギリシャ神話に多少詳しくなったクチであるが、その古代ギリシャは西洋文化の源泉であると言っても過言ではない。とくに学問の部門では遺産が多いが、西洋世界では長らく「今よりも優れた文明の時代」というロストテクノロジー的なまなざしを向けられていた。ギリシャの発明の代表的なものを挙げると、てこの原理・水車・民主主義・原子の概念・オリンピックなど。ギリシャ語を起源とする英単語も多い(academy・telephone など)。
人口に対する遺跡の数が世界一。観光客数は人口を上回る。
地理的には、日本と類似している部分がある。バルカン半島最南端の、エーゲ海とイオニア湾に面するギリシャ。2000の島があるが、そのうち1割ほどしか人が住んでない。国土の8割が山地で、地震も多い(が規模は比較的小さい)。最高峰の「オリンポス山」はギリシャの富士山的ポジションである。平地が少なく海洋に特化した国で、それゆえ世界最大の商船保有国(二位は日本)
歴史を雑にまとめると、アレクサンドロス→古代ギリシャ→ローマ帝国→ビザンツ帝国→オスマン帝国→バルカン戦争 みたいな感じ。第二次世界大戦後、「マーシャル・プラン」によってギリシャとトルコはアメリカに援助され、今回紹介する国で唯一共産主義陣営にならなかった。
現代のギリシャ人は、ギリシャ正教の信徒が9割。ギリシャ語はヨーロッパの多言語との関連が薄く、世界で最も古い言語らしい(諸説あり)。エーゲ海を挟んだ隣国のトルコは互いに異なる古い歴史・文化をもつが、オスマン帝国による被支配の経験から仲は悪い。ただ顔の見た目はそっくり。
現代のギリシャは近年財政破綻をして、EUにお荷物扱いされている「PIGS」の一角に数えられる。
地中海性気候であるためオリーブが有名で、人口あたりの年間オリーブオイル消費量が世界一。ギリシャ料理はオリーブを使った料理が多い。
セックスの頻度が世界一多いという統計がある。また、一世帯当たりの平均人数が多い大家族主義。そのうえ大家族は個人への影響力が強く、歯向かえない。実家で親に隠れてヤってるのか。
58.ブルガリア 薔薇とヨーグルト


明治の「ブルガリアヨーグルト」は日本人の誰しも知るが、本場ブルガリア人もヨーグルトが大好きである。ブルガリアでしか作れない特産のヨーグルトがある。
もう一つのブルガリアのシンボルは薔薇である。至る所でバラを育てており、特に「ローズバレー」と言われる地域では「バラ祭り」というファンシーな祭りが開催される。世界のバラ油の生産はシェア7割以上。
このような国のシンボルの背景には、ブルガリアには広く肥沃な平原があり、農業に恵まれていることがある。黒海とトルコに面する国土だが、バルカン半島の内陸側には山地に囲まれており、ギリシャとは対照的な地形。洞窟が多く、コウモリの37の種類のうち32種類はブルガリアが原産と言われている。
「ブルガール人」と呼ばれるブルガリアを作った民族はテュルク系遊牧民であるが、人口の3/4は人種的には「トラキア人」と言われている。トラキアは紀元前500年ごろ黄金期を迎え、ブルガリアの地域を中心に優れた文明を築いた。しかし、文字を残さなかったので謎の多い部分もある。ただし、現在もブルガリアではトラキア文明の遺産が数多く残っている。
世界史では他に、「第二次バルカン戦争」で登場する。
第二次大戦には枢軸国として参戦するが、手早く連合国に鞍替えし、戦後はソ連第16番目の共和国と言われるほど親ソ路線をとった。首都ソフィアは現在も旧ソ連の趣がある。ソ連解体後人口流出が激しく、少子高齢化が深刻な国の一つ。一方物価が安く、観光の穴場である。
59.ルーマニア ドラキュラ城
左はヴラド串刺し公 右は彼の城でドラキュラ城のモデルになったブラン城(Florin Şarpeより取得)
ルーマニアはバルカン半島で1番面積が広い国である。また、ルーマニア正教会はロシア正教に次ぐ信徒がいる東方正教。マジョリティは「ルーマニアRomania」の名の通りバルカンの他諸国とは異なりスラヴではなくロマンス系、ラテン人である。言語はラテン語の子ども的な言語で、現存する言語のなかで最もラテン語に近く、古い言語。
定住地を持たない民族の「ジプシー」またの名を「ロマ」はルーマニアに多いが、ルーマニアが故郷ではない。インド北部のロマニ地方からと言われている。その他、ルーマニア以外にも東欧から中欧各国に分布している。ルーマニア国内で差別は根強くある模様。
15世紀ワラキア公国の、ドラキュラのモデルとなったヴラド串刺し公は、オスマン帝国と戦った英雄だった。しかし敵兵士を串刺しにしてさらし者にしたため、「串刺し公」と呼ばれ、後に「吸血鬼ドラキュラ」のモデルになる。
ヴラドの死後、オスマン帝国の支配下に入り、帝国主義の時代に「露土戦争」で独立。第一次大戦後は戦勝国として、ルーマニア王国が栄えるが経済発展は進まず。第二次大戦は枢軸国側に立ち、戦後共和国でソ連の衛星国になる。
魔女が職業として認められており、政府による認可制になっている。
60.モルドバ 最東端のラテン人


世界最大のワインセラー「ミレシュティ・ミチ」(ウィキメディアコモンズを通じDave Profferより) 右の国旗はルーマニアそっくり
民族的にはルーマニアとさほど変わらないが、ソ連との引っ張りだこの結果生まれた国。国旗もルーマニアと似ており、同じカラーリングに鷲と牛を描いた国章が入っている。
ロシア語を喋り、ボルシチを食べて、ロシア正教を信仰しているラテン人。ラテン人らしくワイン好きで、一家に一台のワインセラーがある。
世界一でかいワインセラー(上画像)もある。旧採石場のなかの50キロがワインセラーになっており、150万本のワインが貯蔵されている。
ルーマニアとの関係は、モルドバが共産主義陣営に入ったため、歴史的には北朝鮮と韓国的な関係だが、2国間の関係は良好である。殆どの人がルーマニア語とロシア語とバイリンガル。
2つある自治区のうち東のドニエストル自治区はよりロシアに近く社会主義を標榜しており、EU加盟に反発。紛争に発展し、経済発展を阻む一因となっている。
ヨーロッパで一番観光客が少ないマイナー国。一人当たりのGDPは欧州で最低。都市化率が世界で最も低く、2004年~2014年で人口が14%減少している。
61.アルバニア 双頭の鷲
画像はアルバニア国旗
赤字に黒の双頭の鷲。渋さを感じて欲しい。この双頭の鷲がアルバニア民族のシンボルマークである。
ギリシャの東側にある国。旧ユーゴスラビアに距離的に近いが、アルバニア民族はユニークで、言語も孤立している。かつてはより広い領土を待っていたこともあり(大アルバニア)、周辺国にもアルバニア人が一定数いる。その代表例がコソボ。アルバニア人の宗教は多数派がイスラム教徒である特徴があるが、アルバニア本土ではほとんどが無宗教。背景として、1945年から90年まで、(世界最初の)無神国家として信仰を禁じた歴史がある。
第二次世界大戦時は共産主義国だが、そこでも少し独自のポジション。というのは、中ソの分断の際に、中国側についたことでしばらく中国が唯一の同盟国になっていた。1990年に共産主義をやめる。冷戦時代に作られたトーチカ(コンクリートの防空壕みたいなやつ)は共産主義のリーダーが第二次大戦中に70万個立て、現在もそこらじゅうにある。
70%が山地だが、国民の半数弱は農業に従事している。一時は鎖国に近い、自給率100%に近い生活をしていたことも。
今回は「バルカン半島の旧ユーゴスラビア以外」というくくりだが、民族の相違をみてもらうと少しイメージがわくのではと思う。
次回は中欧へいきます。ヨーロッパは今後、中欧→バルト三国→北欧→ベルネクス→南欧→西欧 とやっていく予定。
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