こんにちは、さこです。「全世界193か国をひとことで紹介する」シリーズの、中東中編です。今回は、東地中海の「レヴァント」と呼ばれる地域を紹介します。
※ウィキメディアコモンズより
この地域には非常に古くから人が住んでいた場所です。「肥沃な三日月地帯」の西半分であり、農耕が始まったのもこの地域から。また、イスラエルのエルサレムが聖地とされる他、聖書に登場する地域の大部分はこの地域にありました。
地中海沿岸に多くの港があり、ベネチアやジェノバなどの海洋都市のライバルでした。かれらヨーロッパから見て東にあることから、東を意味する「Levant(レヴァント)」と呼ばれるようになります。
あと、歴史学的に「大シリア」というとレヴァントを指しています。
そんなレヴァントの5カ国について今回は紹介します。(33.〜37.)
33.シリア ISIS
悪いイメージを前面に出して申し訳ないが、分かりやすさを優先しました。
アラブの春*1以降政府vs反政府の内戦が続き、さらにISIS(Islamic State of Iraq and Syria)も加わり三つ巴の泥沼戦争へ発展した。現在、中心地ダマスカスは治安も良く賑わっているが、近郊へ行くと内戦の爪痕が残る。ISISは壊滅したものの、政府と反政府の対立は続き、テロもしばしば起こっている。
このように、治安の悪いイメージが強いシリア。一方で、歴史的には世界でも最も古くから人類が生活している地域であり、しばしば最も発展している地域であった。(ただし、「大シリア」とは混同しないよう注意。現在の国土は、旧オスマン帝国を分割した際、「サイクス・ピコ協定」でイギリスとフランスに分割された名残によるものが大きい)。
シリアのダマスカスに首都を置き発展したウマイヤ朝は、イスラム最初の帝国である。このウマイヤ朝の創始者(ムアーウィア)は、それまでのイスラム共同体(正統カリフ)に反旗を翻して成立させた。この2つの流れのどちらを支持するかが、後のスンニ派とシーア派分裂に繋がる。
ウマイヤ朝だけでなく、さらに遡って紀元前3000年ごろから人が住み続ける人類最古の歴史を持つ地域(諸説あり)とも言われている。首都ダマスカスと最大都市アレッポは世界でもトップクラスに古い町で、文化遺産も多く、内戦前は美しい町だった。中東やヨーロッパを支配した大帝国もしばしばこれらの都市に影響を受け、また与えていた。
人類がはじめてガラスの使い始めたのもシリア地方だともいわれている。
34.イスラエル シオニズム
ユダヤ教を信じ、商業に優れ、ナチスに迫害されたユダヤ人。イスラエルは、世界各国に散らばっていたユダヤ人の建国運動「シオニズム」によって成立した特殊な国で、過半数がユダヤ人を占める唯一の国。今でも世界中のユダヤ人はイスラエル人になる権利がある、という制度がある。
シオニズムではユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地であるエルサレムの周辺で建国を図り、それ以前に住んでいたイスラム教徒との間で軋轢が生じる。対立は「第一次~第四次紛争」を引き起こし、現在まで紛争が続いている。エルサレムを巡る戦争は十字軍など昔からあるが、現在のそれは西洋vsアラブの対立が顕在化した最先端になっているとも言える。
そのエルサレムを首都にすることは一種のタブーであったため、日本などは経済都市テルアビブ(Tel-Aviv)を首都と認定している。(しかし、最近アメリカがエルサレムを首都に認定して問題になった)。テルアビブ(Tel Aviv)は文字面からもハイテクな雰囲気が出てるが、ハイテク産業が盛ん。経済ではダイヤモンドの研磨産業は巨大で、輸出の25%を依存している(世界シェア4位)。エルサレムを離れるとイスラエルはかなり平和な国であり、教育水準、寿命などが非常に高く、中東で1番の生活水準。
世界一LGBTに寛容な国ともいわれていて、革新的な気風もある感じがする。ヴィーガン(ガチで野菜しか食べない人ら)の割合が世界一多い(5%)。環境にも配慮が強く、水のリサイクル、太陽光の利用率、環境に優しい企業の割合も世界一。
聖地の周辺なだけあって、世界最古の町など文化遺産ももちろん多数ある。
(補)パレスチナ
分かり易く言うと、シオニズム以前にイスラエルの国土に住んでいたアラブ人の国(?)。
PLO(パレスチナ解放機構)から発展し、パレスチナ自治政府を組織している。パレスチナの事実上の支配地域は東部の「ヨルダン川西岸地区(またはWestBank)」と、南西部のエジプト国境「ガザ地区」である。エルサレムはヨルダン川西岸地区とのちょうど境界にある。都市「ラマラ」がパレスチナの首都的な感じ。パレスチナ自治政府のなかでも「ファタハ」と呼ばれる穏健派と、「ハマス」というイスラム原理主義派の対立があったりする。
国連では「オブザーバー国家」として認定され、UNESCOなどには参加している。
35.レバノン フェニキア
図はフェニキア文字とアルファベットの比較
中東というと砂漠というステレオタイプがあるが、レバノンは山に囲まれているが豊かな土地である(砂漠はない)。国土の中央を走る山脈には白く雪が積もる様子が見られる。「レバノン」という国名はフェニキア語(後述)で「白」を意味する。首都ベイルートは古くから東地中海交易の中心地となり、中東のパリとも言われた美しい街。
「フェニキア」は紀元前にこの地を中心に栄え、地中海全域に勢力を築いた海洋帝国だった。とくに世界史上重要なのは、フェニキア語がアルファベットの原型になったことである。近代も沿岸部を中心に文化の中継地として栄えたが、1975年ごろから紛争が続いた。近年は少し落ち着いたが、いまだイスラエルとの領土問題が残っている。
現在のレバノンは、イスラム教とキリスト教、その他の宗教が調和して国家を成り立たせている多様性の国になっている。人種構成もキリスト教とイスラム教が5:5くらい。なかでも政治体制が特徴的で、「コンフェッショナル・デモクラシー」と呼ばれるものになっている。大統領はキリスト教(マロン派)、首相はイスラム教スンナ派、国会議長はシーア派と、権力が分散されるように慣例で定められている。 多宗教が共存する国はいくつかあるが、キリスト教とイスラム教とが政治権力を分立していることは注目に値するのではなかろうか。
36.ヨルダン 難民ホスト
イスラエルの隣国であるので、多人数のイスラエル難民を受け入れており、世界一難民を受け入れている国である。治安も良く、紛争難民にとってセーフティネットとして機能している。外交でも穏健路線と言われている。イスラム系の王国であるがかなり中立的な国でもある。
ヨルダンはイスラエルの内陸に位置する国で、古くから聖書にも登場する歴史の深い場所。「孤独な三日月」からは少し外れ、国土の80%が砂漠で、非常に乾燥した国。南部の「ワディ・ワラム」はまるで火星のような風景で、映画のロケ地としてよく使われる。
石油が出ないぶん、観光やメディカルツーリズムで経済を立てている。イスラエルとの国境にある死海(塩分濃度高くてめっちゃ浮くとこ)も人気のスポット。
国名は、英語ではジョーダン(Jordan)と言う。
37.キプロス 中東のEU加盟国
赤:トルコ陣営 ピンク:キプロス実効支配地域 青:グリーンライン (ウィキメディアコモンズを通じてGolbezより提供)
地中海に浮かぶキプロス島は、民族的にはギリシャとトルコのちょうど中継地点になる。古くから東地中海の海上交易の拠点として発展した。キプロス島にはイギリスの海外領土が一部あるのに加えて、北半分はトルコのみが国家承認している「北キプロス」に事実上分断されている。北キプロスとの境界には「グリーンライン」と呼ばれる国連の緩衝地域があり、市街地の真ん中に壁や有刺鉄線を引き移動できないようになっている。キプロス島全体で見るとギリシャ系とトルコ系の複合民族だが、北キプロスを除くとほぼギリシャ系。
以上のような分断はあるものの、キプロスとしてのオリジナリティもある。ギリシャ系民族であってもギリシャ語は激しい方言で、北キプロスもイスラム系ではあるが、女性であってもヒジャブをしない。
イギリスの旧植民地のため、多くの国民が英語を喋れる。イギリス海外領土には軍事基地がある。国土が狭い上乾燥した地中海性気候のため水で苦労している。
「ストイック」の語源となったストア派哲学の創始者ゼノンの出身地。
ギリギリ中東に含まれるが、EU加盟国である。
最近どんどん書く内容が増えて長ったらしい記事になってきました…
もうちょっとコンパクトにまとめる努力をします。(^^;
前回の中東前編・オリエントの大国から1週間たってからですが、次回はもうすぐ更新します。次回でアジアは最後、湾岸諸国を紹介します!